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2024.03.04

【1型糖尿病】40代女性患者インタビュー(後編)

 

前編に続き、40代女性・1型糖尿病患者さんにお話し伺いました。10代で発症し、すでに1型糖尿病のキャリア30年を超えるMさん。後編では多くの方が気になる血糖値コントロールや食事の工夫、低血糖について教えていただきました。

 

また「1型糖尿病患者さんが子どもを望むこと」についてもご自身の挑戦・葛藤についても赤裸々にお話しくださっています。どんな思いを抱えて病気を歩んできたのかを伺います。

 

1型糖尿病患者さんの血糖値コントロールとは 

10代で1型糖尿病を発症し、キャリア30年超えのMさん。血糖値コントロールのために食事で気を付けていることや、実際にあった失敗談など具体的な食生活について伺いました。ごはんを食べることの重要性や、低血糖のことなど、糖尿病患者さんには気になるトピックスです。

カロリーだけを気にしていた過去

簡単に言ってしまえば、血糖値コントロールするためには食事内容・量にあったインスリンを注射する、それだけです。ただ、食事内容に合わせてインスリンの量をコントロールするのがけっこう難しいのです。以前の私は、カロリーだけを気にして食べていました。その頃、私は揚げ物や天婦羅など油っぽいものが大好きでよく食べていましたが、カロリーしか気にしていない私は揚げ物の油でカロリーが高くなるので、ごはんを抜いてカロリーの帳尻を合わせていました。カロリー的には収まっているのでOKと考えていましたが、これは大間違い。今では笑い話になりますが、同じ糖尿病の方で私のようにカロリーだけに注目している方は案外少なくないように思います。

 

食事はバランス、内容が大事なのは当たり前のことですが、糖尿病と言われると糖質ばかりに意識がいってしまい、糖質抜きに走ってしまう方も多いと思いますが、それは絶対にやめましょう。

 

私の場合、ごはんを抜いた食事では、カロリーに合わせてインスリン注射をすると低血糖になることが多く、インスリン注射の量を調整するのが難しくなります。逆にごはんを食べた時はインスリン注射の量も調整しやすく低血糖になるリスクは低くなります。ごはんをしっかり食べた時の方が血糖値コントロールが正しくできるので、ごはんは大切だなと常々思っています。

 

また最近では宴会などの機会は減りましたが、糖尿病であっても頻度が低ければ宴会などたまには羽目を外してしまう日があってもいいと私は思っています。その時の食事が仮に度が過ぎていても、その次の食事から(帰宅後から)調整することはいくらでもできます。自分の中で、普段の食事、ご褒美の食事と、それぞれのルールを決めてペースをつかむことが病気とストレス少なく付き合う方法かなと思っています。

 

私がたどり着いた食事のルール

今では食事についてきちんと学び、ごはんは必ず食べるようにしています。色々試した結果、白米と玄米を半々にして毎食100g食べること、が現在の私のちょうどいい適量です。ごはんに加え、おかず、野菜もしっかり食べ、少し足りないなと感じた時は具沢山の汁物でお腹の具合は調整しています。

 

昔はおかずをしっかり食べることが難しいと感じていましたが、最近ではお豆腐や魚を使って簡単にできるおかずのメニューをいくつかパターン化させているので、前よりもおかず(たんぱく質)を摂ることに悩むことはなくなりました。お豆腐についてはそのまま冷奴や湯豆腐としても食べられますし、焼いてかつお節をかけても美味しく食べられて、時間がない時もすぐに準備ができるので重宝しています。無理なく続けられる方法を見つけ出せると、コントロールが必要な食事も身構えずに対応できるので、ご自身の好みにあった簡単にできるメニューをいくつかパターン化しておくことはおすすめです。

 

またインスリン注射については食事の10分前に打つように医者からは言われていますが、体調によっては食事が思ったよりも食べられない時もあるので、私の場合は確実な量を打つために食後に打つようにしています。食後に打つ場合は高血糖の時間が多少できてしまいますが、食前に打ってしまうと低血糖を起こさないために、無理やり食べなくてはいけなくなってしまうのでそれが嫌で食後にしています。食後の場合は、打つのを忘れたら大変なので、打ち忘れだけは気を付けるようにしています。

 

1型糖尿病患者さんが恐れる低血糖

糖尿病でない方であれば、通常の生活の中で低血糖になることはまずないでしょう。ですが、糖尿病患者さんにとって低血糖は命に関わるとても恐ろしいものです。1型糖尿病患者のキャリアが30年以上のMさんも低血糖の怖さとは未だに戦っています。

 

Mさんの低血糖体験談や、低血糖のリスクがあるため積極的にできないことなど、1型糖尿病患者さんが避けて通れない低血糖について詳しくお話しを伺いました。

 

低血糖の怖さといつも隣り合わせ

糖尿病の方であれば誰もが心配な低血糖ですが、私は食事のコントロールがうまくできるようになったので低血糖になる頻度はかなり減りました。またインスリン注射も医療の進歩でどんどんいい薬が出ているので、これも低血糖が少なくなった要因1つです。

 

現在は超遅延型と即効型を使い分けていて、昔使っていた遅延型のインスリン注射を使用していた時よりも低血糖は起こさなくなりました。低血糖になると私は異常なネガティブになるので、家族にも「いま血糖低いんじゃないの」とすぐに指摘されます(バレます)。いつもなら気にならないようなことで欝々した気持ちになってしまったり…低血糖はできる限りなりたくないものです。普段から体の異変や体調に気を付けながら過ごしています。

 

低血糖になることは減りましたが、それでも低血糖の怖さとは常に隣り合わせのため、食事の時間帯(タイミング)はいつも気にしています。

 

また低血糖のお守りとして今でも必ずラムネやブドウ糖のタブレットは持ち歩くようにしています。そして、ストレスや環境によっても個人的にはインスリン注射の効き方が違うように感じています。

 

以前、いつもと同じ食事で同量のインスリンを打ったはずなのに、寝ている間に低血糖を起こしました。朝起きたときに身体は重くて動くことができない、声もでない、そして隣で寝ているのが夫とわからない(誰だか認識できない)症状が出たことがあります。低血糖対策として、食事だけではなくストレスもできるだけ溜めない(溜めても早めに発散する)など食事以外のところでも工夫して過ごすようにしています。

 

インタビューに答えるMさんご本人

深夜低血糖の怖さ

基本的に1型糖尿病患者であっても行動を制限する必要はないとされています。ですが、私の場合は、仕事での出張、遠出、旅行を含めて泊りが発生する行動は極力避けています。

 

なぜならば、私の場合は深夜低血糖がひどい時期があり(朝、誰にも見つけてもらえなければ昏睡で死んでしまうレベルのもの)、その経験からも泊まりでの行動は控えています。


もし行くことがあったとしても低血糖のことを理解している夫と一緒でなければ安心して泊まりに行くことはできません。今でもすごく疲れている時などに深夜低血糖を起こしてしまうことが稀にありますが、その時には夫がヤクルトを飲ませてくれたり、的確な対応をしてくれるので本当に助かっています。

 

ただ深夜低血糖を起こした時の夫の懸命な介抱については、私はほとんど覚えていません。ありがたいですが、深刻な深夜低血糖を起こしている時は、意識は朦朧としているため記憶がほとんどないのです。低血糖の怖さを身をもって経験しているので、病歴30年を超える私でさえも、未だに低血糖への恐怖は持ち続けています。だって低血糖は命に関わるのですから、この恐怖は患者以外(低血糖経験者以外)にはわからない恐ろしさですよね。

 

私はとても怖がりなので、泊まりで行動することに制限をかけてしまっていますが、1型糖尿病患者さんが泊まりでどこかに行けないわけではありません。国内外関係なく世界中を飛び回っている1型糖尿病患者さんもいますので、あくまでこれは私の場合のお話しです。

 

教科書通りに行かない運動療法

運動も基本的には合併症がない限り積極的にやってよし、とされていますが、私の場合はやっぱり低血糖が怖くて、少し前まで積極的に体を動かすことはしていませんでした。最近では、低血糖になる頻度も減ったことから、ジムに通い始め運動する機会が増えてきましたが、それでも有酸素運動については気を付けて行うようにしています。

 

かかりつけ医からは有酸素運動は適度(日常生活で歩くくらいでOK)にやるくらいでよいと言われていますので、積極的に有酸素運動はしていません。1型糖尿病患者向けの冊子などを見ると運動療法のメリットばかり書かれていますが、実際はその通りには行かないことも多いですし個人差が大きいので、自分の体調に合わせて調整が必要だと感じます。

 

私は有酸素運動をちょっとでもやり過ぎると帰宅後に低血糖になることも多いですし、日常生活の中でもたくさん歩いたなと感じた時は低血糖が起こらないよう、何か口にするなど低血糖対策をするようにしています。なかなか教科書通りにいかないのが現実ですね。今の私は有酸素運動よりは、50代に向かって健康的な体でいるために必要な筋力をつけたいので、筋トレの方に重きを置いて運動に取り組んでいます。

 

糖尿病を持つ女性の出産の難しさ

私は子どもが大好きで、絶対に子どもが欲しいと思っていた時期もありましたが、結果いまは子どもがいない人生を歩んでいます。夫と2人仲良く暮らしています。

1型糖尿病の私が妊娠を望んだ時、病院から言われたのはHbA1cを健常者と同じに保つことが

 

絶対条件で、そのコントロールのため管理入院が6か月必要になるかもしれないと言われました。当時は30代後半で働き盛り、キャリアも失いたくない、夫の仕事も不安定だったので一家の大黒柱として働いていた時期でした。

 

子どもを産むためには仕事を辞める覚悟が必要で、仮に入院期間を短くしても低血糖の怖さとの闘いであること、収入、キャリア、今の生活…と何度も何度も葛藤し続けて、最終的には子どもがいない人生を歩む選択をしました。

 

自分が死んでも子どもが欲しいと望んでいたことを38歳で諦めた時は、死にたいくらいつらく、その後7~8年は精神的ショックで自律神経が乱れ体調不良に悩まされました。今では割り切っているので、残りの人生を楽しく過ごせるように前向きでいます。

 

子どもが産めなかった苦しみは私の人生の中でとてつもなく大きく、病気になったつらさよりも大きいです。私と同じく1型糖尿病で妊娠を望まれている方はいらっしゃると思います。もちろん1型糖尿病でも無事に出産している方もたくさんいますので、希望されている方は、1人で悩まず周りに支えてもらいながら、あきらめずにチャレンジして欲しいなと思います。

 

病気を受け入れて未来へ

17歳で1型糖尿病を発症した私は「努力してもどうにもならない」という経験をこの時から嫌というほどしてきました。誰よりも自分は劣っているという感覚が強いのですが、それでも病気だからこそチャレンジできたことも多かったし、自分を成長させてくれたのは病気のおかげと思っています。現在は独立して仕事をしていますが、病気でなかったらおそらく独立もしていなかったはずです。

 

自分の病気を周りのせいにしたり、社会のせいにしたり自暴自棄になっても、現状を変えることはできないので文句を言っても仕方がないことです。病気を受け入れて、残りの人生を楽しく生きることの方が素晴らしい。それに、いま世界では戦争など悲しいニュースも多く見聞きします。

 

もし戦争の真っ只中の地域で1型糖尿病の赤ちゃんが産まれたら、薬もなく命を落とすことになるでしょう。でも私は必要な時に薬も手に入る日本にいて、ありがたいことに生きることができています。これだけでも十分ありがたいことだと感謝しています。

 

また現在は昔に比べて、病気の偏見も減り保険も入れるようになりました。そういう意味では患者もだいぶ守られている時代になったと思います。つらい経験をしたことをバネにする必要はないと思いますが、つらい経験がわかることは貴重な経験です。

 

何度も言いますが「病気になりたくでなった人は1人もいない」ので、なってしまった事実は変えられません。病気の自分を受け入れ、これからの未来が楽しく充実したものになるように、未来のことを一生懸命考えていきたいと私は思いますし、同じ病気の方も未来を見据えて行動して行って欲しいと思います。

 

まとめ

1型糖尿病患者さんのインタビューを前編・後編と2回に渡りお届けしてきました。

 

病気になったことでつらい経験も多くされてきたMさんですが、Mさんから出る言葉は決して悲観的ではなく、芯があり病気を理由にしたくないという強い決意が感じられるものでした。普段、病気を公表していないMさんですが、その理由は「病気を言い訳にしたくないから」とのこと。仕事もプライベートも病気ではない方と同じ土俵で戦っていきたかったというMさんは、それを実行するために人よりも何倍も努力されてきたことと思います。

 

明るく活気あふれるMさんと話していると、インタビューの途中でも病気ということを忘れてしまいそうなくらいでした。ですが、決してここまでの歩みが平坦なものではなかったはずです。患者さん1人1人に色んな背景があって現在に至っており、それは数えきれない葛藤や困難を乗り換えてきた結果であるということを、私たち患者さんと触れあう人間は忘れてはならないと感じました。