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2024.02.26

【1型糖尿病】40代女性患者インタビュー(前編)

 

今回は40代女性・1型糖尿病患者さんに、発症から現在までの貴重なお話しを伺いました。

 

病気のことを赤裸々にお話しするのは勇気がいることですが、包み隠さず正直なお気持ちをお話しくださいました。またデリケートな話題であろう「糖尿病患者さんが子供を持つ」ことへのご自身の挑戦・葛藤についても後編でお話しくださっています。

 

10代で発症し、すでに1型糖尿病のキャリアが30年を超えるMさん。現在はIT系のお仕事で独立され、見た目からは病気を持っているとは想像ができないくらい明るくバリバリ働いているMさんですが、どんな思いを抱え病気と歩んできたのかを伺います。

 


インタビューに答えるMさんご本人

 

1型糖尿病と診断された日

10代で1型糖尿病を発症されたMさん。診断に至るまでの経緯や、その時の気持ち、周りの反応、そして病気になって感じたことについて伺いました。多感な時期に、ある日突然「1型糖尿病」の診断。病気とどのように歩んできたのでしょうか。

 

急に痩せ始めた高校3年生の春 

それまで標準的なスタイルだった私ですが、高校3年生の春頃から急に痩せ始めました。痩せ始めた頃は、スタイルもよくなるしラッキーくらいしか思っていませんでしたが、同時にすごく喉が渇く症状も出ていました。とにかく甘い飲み物が飲みたくて仕方がないので、休み時間ごとに学校にある自動販売機でいちごオレを飲み干していたくらいです。そのせいかおしっこもすごい量が出る、という日々が続いていました。食事については、以前と何も変わらないままでしたが、あまりに痩せ続けるので保健室の先生に相談に行くと、それはおかしいということでその日のうちに学校近くの病院を紹介され受診することに。

するとすぐに「1型糖尿病」と診断されました。家族や親戚に糖尿病の人もいないためすぐに「1型」とわかり、一生インスリン注射をしなくていけないこと、食事の管理が必要なことを説明されましたが、正直その時は自分ごとに感じられず、どこか他人事のような感覚で案外冷静な自分がいた記憶があります。

今思い返してみると、ある日突然「1型糖尿病」だと告知され、当時の私にはショックが大きすぎて受け入れられず、もうひとりの別人格を自分の中に作って、その人格の中につらい気持ちを押し込めながら、心のバランスをどうにか保っていたのだろうと思います。これは大人になってから気が付いたことです。

 

意外な周りの対応に…

1型糖尿病と診断された日から2週間ほど学校をお休みして、学校近くの病院でそのまま入院することになりました。その後、治療がひと段落して病院から学校に通うことになるのですが、この時私が何よりもつらかったのが、病気になったことよりも周りの反応、特に大人の対応でした。

今では考えられませんが、当時は私が学校をお休みしている間に、担任の先生が私の病名をクラスのみんなに公表していたのです。

 

他の先生も授業中に「若いのに糖尿病になってかわいそう…」と言ったことで、学校に戻った時のクラスメイトの反応は、腫れ物に触るかのような反応。他人とは違うことがただでさえ嫌な多感な時期に、私は病気になったことで、みんなに笑われている、一般的な枠から外れている人間なのだ、と強い劣等感を感じたことを覚えています。

 

さらに同じタイミングで失恋もしていたので、精神的ショックはさらに大きくなっていました。今思い返しても、17歳で病気の宣告と失恋のダブルで傷ついた私。よくぞ自暴自棄にならずに乗り越えたなと我がながら頑張ったなと思います。

 

1型糖尿病は「たまたま」かかる病気

1型糖尿病になった原因は、今でもはっきりわかっていません。発症する少し前に酷い風邪を引いた覚えがあり、その時のウイルスがたまたま膵臓に入ってしまったのかもしれない…ということは当時のお医者さんとも話しましたが、本当にそれが原因だったのかは誰にもわかりません。風邪を引くように、「たまたま」膵臓に、「たまたま」私が運悪く発症してしまっただけなのです。

また糖尿病というと暴飲暴食、甘いものが大好きというイメージを持たれがちですが、そんな食生活をしていたから発症したわけではありません。当時の私は食べることは好きでしたが、甘いものを好んで食べるわけではなかったですし、1日3食の食事をしっかり食べるというごく普通の食生活を送っていました。

 

何か身体に悪いことをしてしまったのではないか、原因は自分の中にあるのではないか、と自責思考が強くなってしまうこともありましたが、病気になってしまったことは誰のせいでもないのです。どんな病気でもなりたくで病気になる人はいませんし、健康意識が高く丁寧な生活をしていても病気になる方もいる。逆に暴飲暴食をしていても長生きする人がいることを考えると、本当に運悪く「たまたま」なってしまっただけなのです。

 

病気になってしまった現実は変わりません。病気になってしまったことを嘆くよりも、それをどう受け入れてこれから病気と共にどう生きていくのか。これからの人生が病気を理由に暗いものにならないよう、未来を見え据えて楽しく生きて行くことを考える、これが一番大切なことだと思っています。

 

1型糖尿病患者になって…

10代の多感な時期に1型糖尿病を発症したMさん。高校生活では周りの心ない対応につらいことが続きました。その後も1型糖尿病患者として生活する中で思わぬ壁にぶつかることが。ですが、病気になりよかったこともあるというMさん。自分が患者になったからこそ経験できたこともたくさんあったそうです。
医者にもわからない、患者さん視点だからこそわかる貴重なお話しを伺いました。

 

病気をしてわかった2つのこと

私に限らず誰でもそうですが、病気になりたくてなる人は1人もいません。病気になったことはよかったこととは思いませんが、それでも病気だからこそ知れた・できた経験があり、それは自分にとってプラスになっています。病気になってよかったと思えることは2つあります。

 

1つは、「病気の人の気持ち(痛み)がわかるようになったこと」。

これは経験しなければ絶対にわからないことで、糖尿病の専門医ですらこの気持ちは理解しえないことです。自分が患者になり他人の痛みを理解することができるようになったことは、大きな財産だと思っています。病気になってからは、同じ1型糖尿病の友達や、腎臓病で透析をしている友達など、病気をしなければ出会わなかった患者友達ができました。

病気についての情報共有や、時には気持ちをぶつけ合うことも。同じ患者だからこそ共感できる部分も多く、病気になった当初はそういった仲間が精神的な支えとなりました。もし1人で病気と向き合い悩んでいる方がいれば(特に病気になりたての方は)、ぜひ仲間との交流をおすすめしたいです。

ただし、患者同士の交流で気を付けて欲しいことがあります。それは「傷の舐め合いにならないこと」と「他人の成功事例=自分の成功事例」にはならないと言うことです。患者同士の交流は心のつながりが持て、精神的にも楽になる部分はありますが、依存しすぎる方も少なくありません。

最終的に病気を受け入れるのも、病気と共に生きて行くのも自分です。他人の力でどうにかなるものではないので、その辺りはきちんとわきまえて交流することが大切だと感じます。

 

2つめは、「親の愛情を知れたこと」。

私は一人っ子のため、両親がしっかり自立して生きていけるようにと厳しく育てられました。進学校に通っていたので勉強はどちらかというとできた方でしたが、成績がよくても褒められたことはなくできて当たり前のような家庭で育ちました。

そんな環境の中で、1型糖尿病になった私に母親が言った一言「変わってあげたい」。

この一言で母親の本心を知ることになりました。そんなことを言われたことがなかったので、その一言で自分は愛されていたのだなと確信が持てました。少し大袈裟かもしれませんが、親の愛を知りたくて病気になったのでは?と思えるほど大きな出来事でした。

 

大きく立ちはだかる病気というハードル

1型糖尿病になったからこそできた貴重な経験もありますが、やはりつらい経験も数えきれないほどあります。例えば就職活動では、1型糖尿病であることが思わぬ壁となり、病気を理由に何社落とされたかわかりません。面接でもはっきりと「君みたいな子は、うちでは預かれない」と言われることが多かったです。


自分のせいで病気になったわけではないのに…と面接のたびに悔し涙を流していた記憶があります。最終的に住宅メーカーに就職しましたが、四大卒なのに体が弱いという理由で営業職や総合職には就けず、短大卒と同じ待遇かつ接客部門で採用されました。

社会人になってからは会社の保険には病気を理由に入れませんでした。今では保険の種類も増え入れる保険もありますが、当時は入れず「死んでもお金が入らない」と母親に愚痴を言ったことがありました。すると母は「死んだら無駄だから生きて働きなさい」と。この一言で「そうだな」と合点。気持ちを切り替えて頑張って働こうと前向きになれたことを覚えています。糖尿病患者として暮らしているとネガティブなことがよく起きるので、病気になってからは「気持ちの切り替え」が上手になったと思います。

それ以外には、1型糖尿病患者だと歯医者に断られるということです。この話をすると驚かれますが、糖尿病の方はお断り!という歯医者も多く、現在のかかりつけ医にたどり着くまでには、何件歯医者に問い合わせや受診したかわかりません。このように、病気ではない方は何の障害もなく生活できていることも、1型糖尿病というだけで思わぬことで躓くことが意外とあるのが現実です。

 

まとめ

前編では、診断された日から病気になって経験されたプラス面とマイナス面についても幅広くお話しいただきました。インタビューをさせていただき、想像もしていなかったことで苦労されていたことがわかりました。「自分がなりたくで病気になったわけではない」にも関わらず、糖尿病への間違った知識やイメージで、様々な不利益を受けて病気と歩んでいるのは、きっと今回お話しを伺ったMさんだけではなく、糖尿病患者さんの多くが経験されていることかもしれません。

今では病気への偏見・差別についても問題視され、是正されつつありますが、今回のインタビューを通し、「患者の気持ちは患者にしかわからない」という言葉にもあるように、表面上の会話や印象だけではわからない、患者さんの心の奥深くにある本心に触れることができ、患者さんへの理解がより一層深められたと感じます。

 

後編では血糖値コントロールのための食事や低血糖のこと、苦渋の選択で諦めてしまった子供のことなど、1型糖尿病患者さんのリアルなお話しを伺います。